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■生損保の経営不信拡大と共済への関心の高まり

 これが、国民の経済的な生活を保障する社会的機能を担った保険会社の実態ですから、保険契約者の立場に立った経営姿勢は実現されてきませんでした。こういう矛盾や限界が、だんだん国民の目にも明らかになってくる中で、国民は地域・職域で協同して生活の改善・向上を図るために協同組合等を組織し、助け合いの制度として共済を実施してきました。

<自主共済の誕生と発展>
 皆さん方の団体は1970年代以降の社会保障の後退と保険会社の消費者不在経営に対し、自主的・主体的な自治組織によるくらしといのちを守る共済運動を発展させてきたと理解することができます。
 従来、自主共済は、経営者が労務管理政策の一環として行ってきた企業内共済に対して、労働組合が組合員間の助け合いとして実践する共済運動であると理解されてきました。しかし、国民の生活不安が広がる中で、さまざまな職域を中心に非営利・協同自治組織を基盤に実施された新たな共済運動もその組織・運営原則と実態から、「自主共済」の一形態と理解することができます。

<労働運動や生活協同組合運動としての共済が職域から地域へと展開>
 また、1980年代には、当時地域生命共済と呼ばれた埼玉県民共済(1982年)が認可を受けています。銀行資本と提携して共済事業を実施するのは労働組合の本旨にもとる行為であると全労済は当初批判していましたが、共済事業が地域に広がりを示すようになると、労働運動における地域推進と退職者への対応などの観点から批判も見直され、全労済も同じような仕組みのこくみん共済を開発しました。他方、主婦の組合員が多く加盟している生協において、女性や子どもを対象にした生協共済が成長してきます。このように、1980年代には多様な共済が実施され、共済は広く国民の生活に根付いていきました。
 1980年代初めの共済の新たな発展に対し、共済規制論が再び蒸し返されました。これに対して1981年に創設された日本協同組合学会では第3回春季研究集会において共済の問題を取り上げ、共済の意義・役割が理論的にも実証的にも明確にされました。共済規制に対する協同組合共済全体の反対運動も広がって、共済規制論は終息に向かいました。
 しかし、共済規制は、絶えずその装いを変えて、いく度となく行政と保険業界から蒸し返されてきています。今回の共済規制もその延長線上にあると私は考えています。

<保険と共済を同一視し、消費者保護を名目に一元的規制を主張>
 とくに1980年代半ば頃は、すでに亡くなられましたが、竹内昭夫教授や鴻常夫教授など東大の商法・保険法を専門とする一門の先生方や西嶋梅治教授などが、保険も共済も同じような約款を使い、契約によって取引し、共済掛金も保険数理を使っており(あるいは保険料率表を参考にしており)、実態は保険そのものであるとの主張を強めてきました。
 しかし、理念・組織運営は本質的に異なり、同じ原理・原則を使っていても、制度・保障の意味は違います。保険の原理・原則は同じであるといっても統計学や確率論など自然科学の成果を使っているだけのことであり、それは国も自治体も使っています。誰が使ったって何も違法ではないのです。協同組合や非営利協同自治組織の助け合いの思想のもとに、民主的で健全な事業運営で保障制度を実現し、あるいは運動として実施しているのだから、保険と共済は本質的に違うものであると、西嶋先生とは研究会でずいぶん論争しました。
 今回成立した保険法あるいは2005年の保険業法の改定に関わる保険法部会や金融審議会の座長をされた、東大の山下友信教授や京都大学の洲崎博史教授など、商法・保険法学者には行政よりの学者が多いです。
 今回の共済規制は、『保険事業と日本社会』(保険毎日新聞社から2007年6月に出版した本)の中でもずいぶん議論をしましたが(その巻末に収載した在日米国商工会議所の意見書・要望書や、米国政府の対日要求、年次改革要望書等の資料をご覧いただければ理解できると思いますが)、とくにアメリカによる外圧が強い影響を及ぼしています。
 いずれにしても、消費者保護を大義名分にして、法改定をすすめているところに今回の共済規制の特徴があります。しかも消費者団体は共済規制の一連の法改定に理解を示しているのです。
 保険関係法の見直しによる共済規制が、皆さん方の自主共済運動の存続、存立を脅かしていますが、共済制度を守る、そして基本的な人権を守ろうという運動の意義は、協同組合陣営にも若干ではありますが、認識を深めさせています。国会あるいは金融庁への要請活動を通して政治的にも、また社会的にも関心を呼び、理解を広めつつあります。この運動をさらに続けていただきたいと強く願っています。

<対日要求をも背景にした共済規制、市場開放の追求>
 保険業法改定の経過と共済に対する法規制に関しましては、2005年に開催された日本保険学会大会の共通論題「いわゆる『無認可共済』問題の総合的検証」と題するシンポジウムの報告を基にして学会誌『保険学雑誌』に掲載した論文の中で詳しく述べています。
 アメリカからの強い要請を受け、根拠法のない共済は、今後事業を行うことはまかりならぬという法の見直しでした。アメリカの市場開放・規制要求に影響を及ぼしているのは、日本の市場ですでに保険事業を行っている、例えばアメリカンホーム、AIU、アリコジャパン、AIGエジソン生命、AIGスター生命を傘下に収める巨大な保険コングロマリットのAIGやプルデンシャル生命やジブラルタ生命を傘下に収めるプルデンシャルグループだと考えられます。
 また、アメリカ以外の巨大金融・保険グループであるドイツのアリアンツ、オランダのING、フランスのアクサ生命なども、アメリカとともに日本に強く市場開放を迫ってきているのです。こういう問題については、日本協同組合学会の2006年の春季研究大会で「共済事業の今日的意義と法規制問題」というテーマでシンポジウムを行い、その成果を先ほどご紹介した『共済事業と日本社会』にまとめましたが、共済事業と民間の保険業者との平等な競争環境の確立を強く求めてきているのです。
 現在、日本の政府は、毎年50兆円にのぼるアメリカの国債を買い続けています。累計でも500兆円にも上ると言われています。それだけアメリカの言いなりになっているということでしょう。アメリカの要請に応じて内閣法制局から金融庁などに強い指示が出されていると考えられますが、いずれにしても日本政府の対米従属姿勢が強まっている中で保険業法や保険法の見直しがすすめられてきたことは明らかです。

<共済を含めるため保険法は、最初から単行法として制定する狙いだった>
 今回の保険法も同じ契約関係を規制するルールとして、共済(契約)にも適用されました。
 現行の商法の中では、保険は営業的商行為と規定されています。商法502条の9に「保険」という項目があり、保険は営利事業として商法で明確に位置づけています。ですから、保険事業は国が監督して、保険契約者、消費者の保護を図ってきたのです。それが保険監督行政の理念の一つになっています。
 ところが、共済にも保険契約と同一の契約法を適用しようというのが当初からの狙いですから、商法改正では共済を含めることができません。このことは曖昧にされていましたが、実は最初から保険契約に関する規定を商法から抜き出して単行法、つまり一つの独立した法律として、共済を含めた形で保険法を立法化しようという狙いがあったのです。
 協同組合共済は、共済の特質や組合員自治など保険との違いを強調し、保険法とは別の法形式にすべきであると要請しましたが、それが受け入れられなかったため、保険法の中で保険と共済を区別し「保険・共済法」という名称にすることを提案しました。しかし、それもうまくいかなかったようです。唯一最終的な段階で保険料とは別に「共済掛金」という言葉を、大手の共済団体の強い要請で盛り込ませるにとどまりました。
 いずれにしても協同組合・非営利協同自治組織の本質を無視して、法形式的、技術的に「保険」と「共済」を同一視し、同じ法律で規制しようというのが保険法ないし行政の狙いなのです。

<金融庁、金融審議会も動き出す>
 これを受けて金融庁・金融審議会も早速動き出しています。7月3日には、保険の基本問題に関するワーキング・グループにおける今後の検討テーマとして、保険募集のあり方とか保険金支払のあり方、保険の規制緩和関係等が取り上げられて、金融審議会第二部会が開かれています。まだ具体的に保険業法の見直しというところまで議論はすすんでいないようですから、法施行5年後の見直しの作業は始まっていないと思われます。
 協同組合共済や自主共済が重視している組合員自治、組合員参加による民主的な運営等の原則を具体化しているのは、1995年にICA(国際協同組合同盟)の100周年記念大会で採択された「協同組合のアイデンティティに関するICAの声明」(協同組合の定義、価値および原則)だと思います。自主共済団体はこの「協同組合のアイデンティティ」に示された協同組合に近い性格を持ち、また同じような組織・事業運営を行っているにもかかわらず、こういう本質的な違いが改定保険業法では全く考慮されなかったということです。


■共済運動の課題と展望

 レジュメの最後に共済運動の課題、展望として整理したことですが、自主共済運動は、職域を中心にして運動をすすめてきていますし、また協同組合共済のように地域に根付いた共済運動でもあります。広い範囲の国民が、地域・職域で自主的・主体的に取り組んで生活保障を実現していくという人と人の強い結びつきを基盤にした運動です。

<基本的には社会保障を拡充していくという運動を展開していくことが求められている>
 本来、共済というのは、特定の組合員をメンバーにして、その団体、組織の内部での相互扶助、助け合いの制度であり、公平・公正、そして民主的な考え方に貫かれた組織原理・運営原則があります。組合員は出資し、事業に参加するとともに事業を利用して、経済的な恩恵を受け、その意義を理解します。したがって、共済制度は組合員間の限定された制度ではありますが、その組織原理・運営原則からすれば、社会保障に近い理念を持ち、真の生活保障を実現しており、社会保障を補完していると言えます。ただ、共済は切り捨てがすすんでいる社会保障にとって代わるものではなくて、基本的には社会保障を拡充する運動を展開していくことが求められています。

<市場原理万能の現在の社会の中で失われている人間性を回復させる役割を持っている>
 それから共済は、もとより慈善運動ではありません。組合員一人ひとりは皆自立して働き、生活している個人です。ですから貧困層を助ける運動ではありませんが、貧困問題の解決に向けた社会活動への取り組みを通して貧困対策に対する国の責任を追及することも期待されます。
 一生懸命働いているにもかかわらず、万が一の場合は自分たちの生活が成り立たなくなってしまう社会であるにもかかわらず、社会保障も期待できないない、まして民間の保険商品は高くて、当てにすることもできないのが現実です。保険会社は、加入者の保険料積立金を社会のために還元しているわけではなくて、保険会社自身の儲けのために使っているのです。そういう状況の中で、人と人とが相互に結びつき、民主的な組織の中で連帯・団結を深めて、共済制度を実施しているのです。そこには当然格差もありませんし、差別も疎外もありません。こういう運動を広げていくことが、将来的には社会的な不平等を排除することにつながっていきます。また、自主共済団体は社会的な不平等を解消しており、市場原理万能の現在の社会の中で失われている人間性を回復させる役割を担っているのです。

<参加することと、保険事業への対抗力の発揮が重要>
 共済は、冒頭にも触れましたが、保険事業の「対抗力」になっていかなければなりません。それは「保障の仕組み」・「共済種類」をたくさん作ることや、事業規模を拡大するという意味ではありません。民主的で健全な共済制度を実現していくということです。共済でこういうこともできるということを広く社会に知らしめていく役割を担っていると思います。それが保険会社の消費者志向経営の確立を求める「社会的な力」になっていきます。

<社会システムの改善・構築の取組み、共済規制に一致団結した闘いを>
 とくにグローバル化や規制緩和政策がすすめられる中で、地域社会は崩壊しつつあります。社会的不平等や格差の広がりから地域住民を守る「対抗力」として共済運動や民主的な諸団体の運動は貢献していくでしょうし、いかなければなりません。人的な結合を基盤にして、他の組織、協同セクターやNPOなどと協力・連帯しながら、社会システムの改善・構築に取り組んでいくことが要請されます。そして何よりも当面の保険業法(監督法)による一層の共済規制に一致団結してこれを許さない闘いを組織していかなければなりません。

<消費者の理解を深められるよう働きかけること、事業や運動のあり方を見直す必要>
 ただ、生協などがそういう対応をしているように、消費者保護に向けた法規制は、一つの大きな流れであり、その法規制の流れを全く無視して、自分たちの独りよがりの運動を続けていくというのは、決して組合員の生活を守ることであるとは言い切れないと思います。
 一方で法規制を跳ね返すというのは並大抵のことではありません。保険法では共済契約を適用範囲に含めましたが、保険業法も共済を同じように対象にするということを意図しているのではないと法制審保険法部会は明言しています。監督法・組織法にまで影響を及ぼすものではないということですから、2011年に予定される保険業法の見直しに保険法の規制内容が影響し、共済規制がさらに強化されるということは許されません。保険業法の見直しに向けて、やはり消費者の理解を深めていくという取り組みをしていかなければなりません。「消費者保護」が法規制の大きな流れとなってきている問題はもちろんありますので、そういう現実も直視しながら、共済制度を守ることが私たちの生活を守ることであることを訴えていくことが必要です。法規制をふまえた形で皆さま方の事業や運動のあり方も見直していく必要があるのではないかと思います。

<国会要請、地元議員や候補者への働きかけ、マスコミ懇談、国民への情報発信を旺盛に>
 さきほど斉藤理事長もおっしゃっていましたけれども、国会要請を今後も続けることが重要です。衆議院の選挙も視野に入ってきていますので、それぞれの地域選出の国会議員にも理解・協力を得て運動をすすめるとともに、まだ「懇話会」の組織されていない県への協力・支援、署名活動、そしてマスコミを含め、さらに情報を広く発信していかなければならないだろうと思います。
 だいぶ時間を超過してしまいました。予定の時間を過ぎましたので私の話を終わらせていただきます。ご清聴ありがとうございました。